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「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」(負けるときには必ず負ける理由がある)とは一見使い古された勝負論のように聞こえますが、企業経営においても意識するべき至言であると思います。
本書は2010年代中盤~後半に倒産に至った23社の事例とその要因を紹介しており、経営者にとって有益な本であると考え、本ブログでも紹介していきたいと思います。
どんな内容?
月刊誌「日経トップリーダー」の連載記事「破綻の真相」をもとに編集された同誌独自取材による国内の中堅・中小企業の倒産の事例について、それぞれの企業の繁栄から破綻に至るまでの経緯を紹介したものです。1社あたり10ページ前後のボリュームで記述されており、うち2社については当時の経営者のインタビューで、当時の生々しい苦悩が語られています。
本書は3つの章から構成されており、以下のような内容が記されています。
- 第1章:急成長には落とし穴がある
- 第2章:ビジネスモデルが陳腐化したときの分かれ道
- 第3章:リスク管理の甘さはいつでも命取りになる
どんな社長におすすめ?
これは筆者なりの見解ですが、以下の2タイプの社長におすすめしたいと考えます。
(1)現在業績が好調な企業の経営者
本書で語られている企業の破綻に至る原因は「業績好調な時期の多角化の失敗」「業績が悪化し始めた時期の対策着手の遅れ」「主力事業への依存度が高すぎる弊害」など、成功体験の記憶が、以後の動きを縛ってしまったことが多く見られます。成功の途上、また成功の栄華を享受している社長にこそ、「一寸先は闇」であることを認識する意味で、本書を読むことをオススメしたいと思います。
(2)起業前の経営者予備軍
起業を志して、事業計画を立てたり、資金調達に着手する段階の経営者志望の方は、当然、事業が成功した際のメリットや幸せな状況をイメージして前進していくことと思いますが、一方で「創業から10年で9割の企業が倒産する」と言われるように企業の出口はバイアウトや上場だけではなく、失敗してすべてを失う結末だってあり得ることを視野の片隅に入れつつ、動き出していくべきと考えます。
この本のおすすめポイント
(1)1社あたり10ページ前後とコンパクトに纏められており、スキマ時間で読み進めるのに適している
(2)破綻の経緯の説明だけでなく、そこから読み取れる要因が紹介されている
売上至上主義の社長の下で収支管理がずさんで、利益を捻出できない
組織の急拡大をコントロールする力がなかった
事業への思いが強く、ワンマン経営のために規模縮小の機会を逃した
上記いずれも本文より引用
上記のように、単なる事実関係の羅列にとどまらず、要因についてのまとめが各章の最後に記されており、読後の整理に役立つようになっています。
(3)破綻企業の経営者の心理が語られている
2者のみですが、経営者のインタビューが掲載されており、社内の人間関係の悪化や、トップの突然の急逝などの苦悩が語られています。倒産の要因を冷静に振り返ることは、時間が経過した現在のインタビューだから出来ることであり、渦中にいる時期には視野も狭まっていたことが想像できます。「経営者の心理状態」を知ることが出来ることは本書購読の大きなメリットと言えます。
筆者の感想
なんのひねりもない言葉になってしまうのですが、企業経営の困難さ、無理ゲー感を事実とともに突きつけられることで、やや落ち込みました。
本書で紹介されている破綻事例はなにも自社の落ち度によるものだけでなく、リーマンショックや、中国企業の躍進など、外部環境の急激な変化によって、主力製品が不振に陥り、結果的に資金繰りが悪化した、等の自社のコントロール外の要因で破綻に至ったものも多いです。本書は発行時期が2018年7月であり、リーマンショックの影響の例が多いですが、昨今ではコロナ禍による破綻に近しい事例が多発しているはずです。
それぞれの事例に一律の対策を立てるのは不可能ですが、一つ付言するとするなら、やはり、不測の事態が生じる前に、「金融機関との連携を強化して、手元流動性を確保する準備をしておく」「外部環境の変化に対応するために各種補助金や助成金に詳しい外部の専門家とのパイプを持っておくこと」など、自社外のリソースを有効に活用できる体制を作っておくことぐらいでしょうか。
「経営が不調に陥るとき、どのようなバッドケースが想定できるか」を知ることは、リスク回避の重要な起点になるといえます。経営者の方の転ばぬ先の杖として、本書が役立つよう、祈って止みません。
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なぜ倒産 23社の破綻に学ぶ失敗の法則
出版社 : 日経BP
発売日 : 2018/7/20
単行本(ソフトカバー) : 287ページ
価格:1,600円(税別)
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